福祉制度

生活保護制度の扶養義務についてご紹介

生活保護の扶養義務について

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今回は生活保護制度でよく疑問に上がる、家族や兄弟が収入がある場合は必ず養わなければならないのか?

この疑問についてお話していきたいと思います。

まず大前提となる世帯という考え方

世帯単位での保護となる

親や嫁と同居しながら生活保護を自分だけ受ける事はできません。これは、世帯単位の原則というものがあり、生活保護は世帯という人全体で受けるかどうかが判断されます。

具体的に世帯とはなんなのか?

一緒に同居していて、一緒に家計を維持しているものです。

具体的には家族もそうですし、カップルの同棲で財布が同じなども含まれますね。詳しくは別記事で解説しています。

同一の住居に居住し、生計を一にしている者は、原則として同一世帯員として認定すること。https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000196725.pdf

扶養者義務者とは?

では、実際の扶養すべき義務者とは、誰なのか?

扶養について定めているのは、民法のうち、いわゆる家族法の部分に定めてあります。

民法752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

民法877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

よって夫婦、並びに親、子、祖父母、孫の範囲に扶養の義務があります。

義務でも弱い義務と強い義務が

だからといって、自分の生活を切り詰めてでも扶養しなければならないのかというとそうではなくて、過去の判例より

夫婦、直系血族、兄弟姉妹の扶養義務は、「生活保持義務」と「生活扶助義務」に分けられます。

具体的には、

生活保持義務 夫婦間、未成熟の子に対する親 自分と同程度の生活水準を提供する
生活扶助義務 成熟した子と親、直系血族、兄弟姉妹 自分の生活に経済的余裕があるとき
例外的な扶養義務 孫、祖父母 家庭裁判所が審判で定める

となってますので、夫婦間でもない限りは、お金に余裕のある時は以外は義務を負うことはありません。

夫婦間以外は、経済的余裕のある人が扶養義務を負う

経済的余裕とは

経済的余裕のある場合に援助といっても曖昧ですよね。

ここで、生活保護問題対策協議会の子の親に対する見解を元に考察したいと思います。

その者の社会的地位にふさわしい生活を成り立たせた上で、余裕があれば援助する義務

例えば、子が社長で、親が生活保護が申請したとしても 世間一般の考え方ではなく 本人が社長としての生活を成り立たせた上で余裕がなければ義務はないわけです。

その場合の扶養の程度、内容は、あくまでも当事者間の話合い、合意をもととする

しかも、援助の内容は当事者の自由合意に委ねられる訳です。

どのような形で扶養の要請の連絡はされるのか

原則、生活保護の申請を行うと 申請者の2親等(親子・兄弟)、場合によっては3親等の家族(祖父母・孫)に対して、
「生活保護の申請があったこと」「申請者の扶養義務者として扶養して欲しい」という連絡がされます。

ただし、全員にされるわけではなく
扶養できる可能性がある者にのみ通知が行われます。

場合によってはかなり強く親族に要望され、これにより扶養は強制というような誤解が生まれていますが

実際には「扶養等による援助があるならば、そちらを先に使う」 といった程度で、「その方が扶養可能であれば扶養してください」という事で 無理なものはきっぱりと断ってもらいましょう。

扶養できない理由は求められる

2014年の生活保護改正時に、明らかに扶養が可能と思われる扶養義務者が 扶養を行なっていない場合、

福祉事務所(生活保護の申請先)は扶養できない理由を求められるようになりました。 ただし、こちらも前提条件として両者の関係が良い事と、 扶養義務者が高額な収入を得ている場合などに限定されます。

あらかじめ扶養届を記入してもらう

職員と扶養の可否の話なった際は、あらかじめ以下の扶養届書を準備しておくと便利です。
ほとんどの場合で、連絡の取れる親。兄弟に扶養届書を記入してきてくださいと言われるケースがほとんどです。
ですので余裕がある場合は、あらじめ記入してもらっておきましょう。

PDF版
扶養届出書
WORD版
扶養届出書

職員は扶養照会する者をどのようにして、選ぶのか?

「生活保護問答集について」の一部改正について
より、扶養照会者を選ぶ、具体的な手順について解説いたします。

先に職員側の手順を解説する事で、後述する回避されるケースについての説明が用意になります。
主に三つの手順により、誰を扶養照会するか決定していきます。

まずは、親・兄弟の存在の確認を行う

まずは、前述の三親等以内の扶養義務者の確認を行います。
基本は本人の申告により確認を行いますが、場合によっては戸籍標本より確認が行われます。

本人に対しての聞き取りにより、扶養の可能性の調査を行う

確認された扶養義務者に対して、本人に対する聞き取りを行い、
扶養できる可能性の調査を行います。
この時点で、扶養照会を拒んだ場合、なぜ拒むのか特に重点的に聞き取りを行ってきます。

というのも、「扶養照会を拒んだ場合、特に丁寧に聞き取りを行う事」
という通達が存在するからです。

職員はあくまでも、法律や通達を根拠に聞き取りを行いますので、
感情的にならず、以下の応答法により
いくつか回避できるパターンがあるので、参考にして下さい。

扶養照会を回避、又は拒否できる応答法

では、生活保護を申請した際は、この扶養照会がされる事が
理由で、生活保護を申請できない方も多くいるかと思います。
そんな時のために回避する方法や拒否できるケースについて説明していきます。

扶養義務者への照会は「扶養が期待できる者」にだけ行われる

令和3年3月31日付けの改正で、
扶養義務者への照会は「扶養が期待できる者」にだけ行われる事になりました。
「生活保護問答集について」の一部改正について
つまり、扶養照会されるのは、職員の判断で扶養が期待できる親族のみとなります。

では、具体的にどのような方であれば扶養が期待できないと判断され
扶養照会されないのでしょうか

扶養が期待できない者とは

主に二つのパターンのいずれかが扶養が期待できないと判断され、照会を避けれます。
「生活歴から明らかに扶養が期待できない者」
「扶養義務履行が期待できない者」

「生活歴から明らかに扶養が期待できない者」

  • 扶養義務者に借金を抱えている
  • 扶養義務者と相続を巡り対立している
  • 縁が切られているなどの関係不良が予想される。
  • 一定期間の音信不通(概ね10年程度)
「扶養義務履行が期待できない者」

  • 主たる生計維持者ではない非稼動者
  • 概ね70歳以上の高齢者
  • 未成年者
  • 長期入院者

それでは、順番に解説していきます。

「生活歴から明らかに扶養が期待できない者」とは

「生活歴から明らかに扶養が期待できない者」という名の通り、
生活歴の聞き取り調査から、主に扶養者との”仲”にフォーカスを当てて個別に判断されていきます。
主に以下の累計に分かれています。

扶養義務者に借金を抱えている

親や兄弟に対して、借金を重ねている場合は扶養照会を避ける事ができます。
借金を重ねながら、扶養を了承する事は現実的にありえません。

扶養義務者と相続を巡り対立している

親の死去などに伴い、相続を巡り対立している場合も扶養照会を拒否できます。

縁が切られているなどの関係不良が予想される。

生活の聞き取り調査の際に、様々なケースで縁を切られていると判断される場合は
扶養照会を回避できます。
例えば、両親より家を追い出されている状況や、壮絶な兄弟喧嘩の後
縁が切れてしまっている場合などです。

一定期間の音信不通(概ね10年程度)

特に縁を切っていなかったとしても、10年程度疎遠である場合は、扶養照会を回避できます。

「扶養義務履行が期待できない者」

先ほどの生活歴から個別に扶養を期待できるのか判定するのとは違い、
こちらは一般的扶養を期待できない類型です。

主たる生計維持者ではない非稼動者

「主たる生計維持者」とは、家族の収入を担っている者。
非稼動者とは働いていない者です。
つまり、妹が専業主婦である場合などは、照会をされません。

70歳以上の高齢者・未成年・長期入院者

こちらは、70歳以上の高齢者・未成年・長期入院者んも場合は
扶養を期待できないため照会を回避できます。

調査の結果、期待できない場合は扶養照会をしない

前述した、「扶養を期待できない者」と判断された場合は、扶養照会を行いません。

扶養義務者以外にも調査が及ぶ場合

扶養義務者が夫婦である場合(生活保持義務関係)には、
関係機関までの調査が行われる場合がありますので
注意が必要です。

結論:しっかりとした準備を

職員でも扶養についてはしっかりと理解していない

申請を担当する職員も法律の専門家ではないので、扶養義務についてしっかりと理解していません。

ですので、扶養義務者のはかなり強く扶養を要請されます。

可能なら申請時は事前に親族に連絡を

申請時に扶養義務者に連絡がいき、うっかり扶養できると言っちゃったがために生活保護が却下されるケースが非常に多いです。

申請前に援助が無理ならば、しっかりと断るよう要請しておく事をおすすめします。

申請者の方でしっかりと根拠となる法律を理解しておく事。

照会されたくない場合は、縁が切れている疎遠である事をしっかりと伝えよう

回避したい場合はしっかりと、自分の中で
親・兄弟との関係性をまとめた文章などを作っておくとよいでしょう。
あくまでも、聞き取り中心に行われますので、しっかりと説明できれば回避は可能です。